古時計/ゼンマイについて
最終更新 2012年 9月 1日
 
香箱入りゼンマイ
時計のゼンマイ(発条/螺旋=ぜんまい)は主に高級機やドイツ製時計などに多い香箱(こうばこ)と呼ばれる円筒形容器に入ってるものと、そのまま剥き出しとなった一般のゼンマイに大別できます。香箱の中には単にゼンマイカバーという意味だけの香箱もありますが、一般には下記のような利点があると考えられます。

  香箱側が軸の回りを回転しながら緩むため、外側からほどけるようにストレス無く素直な緩み方をする傾向がある。
  緩んだ際のゼンマイ最大径が香箱内径で決まり、且つ前述の緩み方と合わせ動作中の駆動力が安定している。
  香箱と一番車を一体化したり軸を含めユニット化出来るため、ゼンマイ交換などメンテナンスが行いやすい。
  埃や水(錆)からの保護、潤滑の維持など外界からの影響を受けにくい。
  ゼンマイ破断の際、近隣部品や機械取付部の破損や歪みなどを回避できる。
  装飾性、などなど。

なるほど、高級機御用達というのも納得!?

香箱入りゼンマイは一般に一方がその香箱に固定され、もう一方が軸に巻き取られます。この時、限界まで巻いてしまうと香箱側の固定部が毎回強く変形を強いられ、やがて金属疲労により切れてしまう原因となります。ゼンマイが切れる場所の多くはこの香箱固定部付近、曲げの曲率が大きい巻き取り軸付近、軸から螺旋を描いたゼンマイが香箱側と接触する付近(下図A部付近)となります。余程焼き入れ状態の悪いゼンマイでなければ、中ほどから切れることはそうはありません。逆説的に言えば、前述以外の場所で切れたゼンマイは真の寿命であると言っていいかもしれませんね。
香箱入りゼンマイでは目一杯巻くことなく、下図の良い巻き状態くらいまでで使用することをお奨めします。無用な負荷を避けられ、ゼンマイ寿命のアップが期待できるでしょう。
香箱入りゼンマイでは良い巻き状態の時、手に感じる重さを良く覚えておきましょう。慣れれば巻き鍵に伝わる重さでどれくらいが限度か、手の感覚でも普通に分かるようになります。
尚、目一杯巻いても曲がりが生じないよう香箱側の固定部が多少振れるよう考案されたゼンマイや、あらかじめ弱い曲げを入れたゼンマイもあります。
香箱入りゼンマイ模式図
 
一般ゼンマイ
一方、一般のゼンマイが緩む時は中心の軸側が回転し、一番車もラチェットを介して軸の回転に同期します。したがって、強く巻き締められた軸の回転に潤滑不足は御法度です。(下記参照)

ゼンマイが剥き出しとなった一般の掛け時計や置き時計では、地板にピンを立てるなどしてゼンマイ破断時に機械内側への広がりを防止し致命傷を回避しています。下写真は破断したゼンマイですが、このように万が一の際機械外側に広がるようにしています。同じようにゼンマイを使用する蓄音機では、主だった駆動部品は数個しかありません。対して時計は構造的に複雑で、か弱い機械なのです。

また最大外径に香箱のような限度がないため、筐体内面に接触するまで大きく膨らんで緩み続けます。時計動作がそこまで続くかはともかく、これらは動作中の駆動力変動となって現れるでしょう。もちろん正確な時を刻むのに好ましくありません。
更にゼンマイ破断時には一瞬に膨らんだゼンマイが筐体内面を強く叩き壊したり、反動で機械の取り付けが傾いたり木ネジを飛ばしたりすることもあります。後年、機械下側の留め金具が4本留めとなる理由の一つに、これらの問題を回避したいことがあげられます。高級機に香箱が多く使われる理由もあらためて納得ですね。

尚、この種のゼンマイでは香箱固定部に相当する端部が機械のポストに巻き付き、回動自在となっています。したがって巻ききっても即問題となることはありません。もちろん、多少余裕を持たせて巻く方がゼンマイのためには寿命アップに繋がるでしょうし、下記潤滑不足に於ける巻き締めの問題もありますのでご注意を。
一般ゼンマイ 破断したボン側ゼンマイ
 

 
面滑り不良ゼンマイ
時計では蓄音機などと比較しゼンマイが緩むのに桁違いの時間がかかります。ゆっくりゆっくり弛緩して、少なくても1日以上保たせてこその時計動作ですからね。長いものでは一度巻くと1年以上OKなんてのもあります。

その際グルグル巻かれて重なり合ったゼンマイ板バネ面の滑りが悪くなるとある限界を超えた時、「ジャン!」と大きな音を立てて一瞬に緩むことがあります。酷い時には勢い余って筐体全体を振動させたり傾けることさえあるでしょう。
  1.ゼンマイ板面の潤滑不足
  2.滑り不足から生まれた抵抗により一時的に駆動力低下
  3.時計動作が続き歪みを抱えながら弛緩の継続
  4.動きの止まっていた板面と緩み続けた板面で大きな力のアンバランスが発生(上写真左)
  5.やがて力のアンバランスを平均化しようと止まっていた板面で突然の滑りが発生し一瞬に駆動力復帰(上写真右)
という経過を辿ります。
あの音は堪りに堪った力が限界を迎え平均化しようと(上左写真で大きく開いた隙間を埋めようと)、まさに板面滑りが発生した瞬間の音なんですね。止まっていた部分が弾かれたように一気に隙間を埋めるべく膨らもうとする訳です。
特に一般ゼンマイが緩む時は素直に同心円状とならず片側に寄ってしまうこともあり、ゆっくり緩むこととの相乗効果で密となった部位の潤滑不足があるとこの種の現象がよく起こります。

これは機械に大きな負荷を与えてしまうばかりか、滑りによる駆動力復帰まで至らず上述2〜3のまま動作停止となる現象も現れがちです。止まっていた時計を移動したりコンコン叩いたら動き出したなどと言うことも、元々はこんなことが原因で止まっていたなんてこともあります。構造的に弱いテンプ振り機械では爆発的な駆動力復帰にアンクル周りのピン類が歪んだりロックしたり、最悪アンクルが跳ね飛ばされテンプとの嵌合が外れあっち向いてホイッ!状態となることもあります。そこまで行かなくても駆動力変化が誤差の元となるのは明らかですし、いずれにしろ良い結果は生みません。それまで順調に動いていた時計がいつの頃からか早く止まるようになってしまった時、ゼンマイを巻いて何日も経ってないのにだんだん遅れるようになった時など、雁木車や歯車回りの潤滑に加えこんなことも疑ってみましょう。あまり神経質になる必要はありませんが、そのような潤滑不足と思われるゼンマイでは酷くならないうちにメンテを施した方がいいでしょう。

また、この種の現象は長時間駆動の時計ほど、ゼンマイが長く密に巻かれていますので起こりやすいと言えるでしょう。毎日巻きより8日巻き、8日巻きより14日巻き30日巻きの方が起こりやすいと言えます。1週間動いていた時計が6日、5日と短くなる、あるいはすぐ止まっちゃうというのはゼンマイのへたりよりも、この種の抵抗による駆動力低下や機械全体を含めた潤滑不足が原因であることの方が遙かに多いでしょう。
 
私見ですが・・・・^^;
注油=グリスアップと簡単に言ってしまうのですが、時計の、特にゼンマイ周りで使用するのにゲル状のグリスは避けた方が賢明かと思われます。毎月・毎年のメンテに怠りなければ話は別ですが、我々一般人は動かしっぱなしだったり止まりっぱなしだったり、そうたびたびはメンテしませんよね。その種のグリスは塗布した当初こそ垂れることもなく非常に効果的なのですが、やがて古くなるとどうしても固まりやすくなります。時々古い機械の軸受け周りなどでその種のグリスが固まったり、機械のあちこちにこびり付いているのを見かけます。それでも軸受けならまだいいのですが、ゼンマイ周りとなると話は別。

現実問題としてゼンマイが強く巻き締められたまま、動かないからと放置されていることが多々あります。そのような場合、古くなったグリスが接着剤のようにゼンマイ面を貼り付けてしまうことがけっこうあります。ゼンマイ自身の応力低下も含め、上記の症状に対してかなり危険と言わざるを得ません。この件に関しては香箱入りのゼンマイでも同様でしょう。

そんな時、保ちはグリスに比べ多少落ちますが、上質のミシンオイルや機械オイルの方が有利でしょう。余程厳しい環境でなければそれでも通常1〜2年は問題ありません。

ちなみに、8日巻き時計(香箱入りは除く)の多くは時計側ボン側ゼンマイ共「1回転1日」という時計がほとんどです。つまり1週間=ゼンマイ7回転と言うことですね。毎週同じ曜日時間にゼンマイ巻きを行うのであれば、巻き鍵を半回転ずつ14回回せば大概OKです。
 
新規追加 2009年 2月20日
 
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