000820  7.プラスチックのお話(その6)
 
プラスチックはご承知のように、日本語で単に「樹脂」と言うことも多い。広義には天然樹脂と合成樹脂があり、天然樹脂の代表には松ヤニなどがある。まあちょっと乱暴を承知で言えば樹液の濃いモノ、またはその固まったモノ、と言ってもいいだろう。
合成樹脂は=プラスチックと思っていい。広辞苑によると合成樹脂という名は、最初に開発されたベークライト(フェノール樹脂)が天然樹脂に似ていたからついた呼び名らしい。「天然樹脂や木材に変わり人工的に合成されたモノ」、と言うような認識でそう遠くはあるまい。
となれば、やはり木材との比較も忘れるわけにはいかない。
 
1.強度の方向性や不均一が少ない
ご承知のように木材には一般に木目がある。年輪に伴う縞模様そのものである訳だが、これも承知のようにその方向によって強度がかなり異なるものである。空手のパフォーマンスに板の試し割があるが、この時その板は必ず木目が平行となるよう支える。つまり柾目(まさめ)の板であれば木目方向と平行には簡単に割れるが、直角方向にはかなり厳しいということとなる。いわゆる合板はこのような木材が持つ強度の方向性を無くすべく、スライスした薄板を互いに木目が交差するよう積み重ねて接着したものである。これはラワン材のように木目のはっきりしないものでも、その繊維が走る方向としてまったく同じことが言える。
実はプラスチックの多くにも配向(←こういう漢字だったと思うが「はいこう」と読む)という現象がある。要するに樹脂の流れ方向とその流れに対して直角方向、または固化の際の結晶化方向などによって、強度や収縮率などの物性が微妙に異なるのだ。ガラス繊維などが混合されるとこの傾向はなお顕著となるのだが、それでも木材の方向性と比較するとその変化は格段に小さい。その差は一般のプラスチックでは事実上無視できる程の差で、ほとんど方向性を気にすることなく使えるのである。この利点は両者を比較した場合以外に効くもので、木材では特に切削加工時などその木目によって鋸の種類を変えるのが普通である。無論プラスチックではそのようなことなく加工が可能となる。
2.耐水性・撥水性
一部の油分を含む材を除き、多くの木材では吸湿性がかなり大きい。その性質は建物などの場合利点の一つともなるのだが、同時に弱点となる場面も多い。たとえば温度の影響と共に、吸湿によっても寸法がかなり狂いやすいということがある。それら長所短所を上手く複合し使い分けたのが日本の伝統的な木造建築になるのだが、その境目はかなり微妙であり大工の腕の見せ所ということだろう。とは言え一般には特に目に触れる外観部など、やはり塗装やニスで何らかの表面処理を施すのが普通である。
対して多くのプラスチックには耐水性・撥水性がある。ナイロンなど吸湿によって物性の大きく変化するプラスチックも一部にあるが、やはり普通は表面処理無しでそれらの性能を持つものが多い。ポリエチレンやポリプロピレンがいわゆるポリタンクやポリバケツとして使われるのは、別項でも述べた通り。他にアクリルやポリカーボネートは後述の耐候性という利点と共に、特にカーポートやテラスの屋根材、食器などとして広く使用されている。
3.軽さ
黒檀など一部の高級材を除けば一般に水に浮くのが木材。プラスチックは前回説明のように比重1以上がほとんど。大概は木材より重いと思っていい。
ところがプラスチックには発泡という得意技を持つものがある。よく知られる発泡スチロール等がそれだが、これらは数十倍〜100倍程度までの発泡率を持つ。10ccくらいの母材があれば1リットル程まで発泡可能となり、その軽さは同体積の場合木材の比ではない。
4.再生使用が容易
木材はもちろん再生使用可能。しかし普通は元の形状そのままか、一部手直しして使うのが精一杯。チップにしてパーチクルボードとして再利用したり、パルプとして紙の原料となることもあるかもしれない。
対してプラスチックはリサイクルして溶融し、まったく違う製品として生まれ変わることが可能である。最近では更に油化プラントにより油に戻し、原料自身から再出発も可能になりつつある。現状では再生油も決して安いとは言えないと思うが、やがて大規模なプラントを建設する方向に業界も動いており。将来はかなり期待出来るものと思われる。
5.耐候性が大きい
木材も法隆寺などかるく1000年以上もつ訳だから、本来けっこう高寿命な材料と考えられる。しかし一般的にはやはり傷みやすいという認識もあり、特に前述の吸湿した状態では耐候性そのものと言うより、カビや昆虫など生物的被害を受けやすい。
プラスチックは逆に「半永久的」とよく形容されるよう、高寿命がウリの一つである。実際は直射日光下など紫外線などの影響により、長時間の放置ではヒビ割れや強度劣化を起こすことも多い。それでも半永久的という言葉が使われるのは、やはりむき出しの一般的金属や木材よりはその変化が小さいということなのだろう。実際、従来多くが燃えないゴミとして埋め立てられてきた現実は否定しがたい。現在ではこの性質が災いし粗大ゴミなどとして大きな問題となっている訳である。
新素材「生分解性プラスチック」が現れた背景にはまさに必然性があった。
 
−−つづく−−
 
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