ベートーヴェン 「3大ピアノ・ソナタ」  No.11 981101
〜いずれ劣らぬピアノ音楽の傑作達〜
 
ベートーヴェンが生涯に作曲した32曲のピアノ・ソナタは、クラシック音楽の中でも「ピアノ音楽の新約聖書」と崇め奉られている。
元々若き日のベートーヴェンは向かうところ敵なしというピアノ演奏の大家でもあり、当時盛んに行われたという演奏家対決でも生涯に負け知らずという、まるで宮本武蔵みたいな人だったわけである。そんな彼が当初自ら演奏するという目的の下に作り始められた曲だけに、当時としてはある種センセーショナルな曲も多く含まれていたようだ。後年耳を悪くして自ら演奏することはなくなったが、作曲自身はライフワークのように生涯を通じて続けられている。
ちなみに新約聖書があれば旧約聖書もあるわけで、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」がその地位を与えられているのは有名な話。
習作(的作品)あり、問題作あり、傑作ありと、ピアノ音楽のあらゆる場面を言い尽くした感のある件の曲達の中には、これもまた当然のごとくいわゆる標題の付いた人気曲も多い。中でも「3大ソナタ」と呼ばれる3曲はレコード時代から揃ってカップリングされ、単にベートーヴェン個人の代表曲というだけでなく、ピアノ・ソナタ史上の名作としてもまことに有名である。
さて、その3曲とは、「悲愴」と呼ばれるソナタ第8番、「月光」と呼ばれるソナタ第14番、そして「熱情」ことソナタ第23番のことを指している。
尚、標題は「悲愴」のみ作者自身が付けたもので、他の2曲は後世の人が曲の雰囲気から勝手に呼んだものである。
3曲もあると個々の説明を詳細にしてたら長くなる。今回は一言ずつおよその感じにとどめておこう。
まず「悲愴」は第1楽章の冒頭いきなり「ジャーン」と始まり、この曲の標題はここから付けられたものかと思わせる。主要部は早めのテンポでグングン進んで行く。
第2楽章はポピュラーやムード音楽に編曲されたりして非常に有名。TVやCMでもよく聴くから誰でも一度は耳にしてるだろう。
第3楽章はちょっと憂いを秘めたロンド。でも悲愴という感じはあまりない。
「月光」は第1楽章にその名の由来がある。派手になることが多い第1楽章には珍しく、終始弱音で奏される非常に有名な曲である。とは言えその由来とされた「月光さす湖畔で・・・・」というのはまったくの作り話。
第2楽章も可愛らしい。
代わって第3楽章はまことに激しく、私個人的にはベートーヴェンらしくて3曲中でももっとも好きな楽章である。
「熱情」の第1楽章は「なぜだ?どうして?」。いかにもそう頭を抱えてる姿が思い浮かぶような重たい音楽で始まる。おそらく3曲中もっとも標題通りピッタリ似合ってるのはこの曲であろう。ベートーヴェンが得意とする苦悩とでも言うのか、ハムレット的心情の曲が展開される。
対して第2楽章はやや明るさを取り戻す場面も。
続けて奏される第3楽章は再びハムレット。ただ悟りを開きつつあるのか第1楽章ほどの暗さはない。
尚、3曲中でも特にこの「熱情」は、傑作としての名が高いことを付け加えておこう。
 
推薦盤

@ ヴィルヘルム・バックハウス 1958〜59年録音 POCL−9820 ロンドン
3大ソナタに第21番「ワルトシュタイン」まで入ってなんと1000円。しかも演奏が巨匠バックハウスという超超お買い得盤。これは買わない手はない、いや、聴かない手はない。
実はかの曲を私が初めて聴いたのもレコードによるこの演奏であった。

A エミール・ギレリス 1973年&80年録音 FOOG−27012 独グラモフォン
旧ソビエトの巨匠ギレリスの名盤。彼らしいやや遅めのテンポによる重厚な演奏である。
 
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