縁の下の力持ち/その2 「機構部品&接続部品」 071121 No.08
 
タンノイスピーカ/アーデンでの出来事である。
久〜しぶりにエッジを張り替え、内心うきうきしながらエンクロージャにユニットをセットした。さぁ〜て初鳴らしといくか・・・・ってことでCDやアンプをセットし再生ON・・・・???
あれ〜〜??右から音が出ない!
配線を確かめて別のスピーカに繋いで、大丈夫じゃん、両チャネルちゃんと出てる。気を取り直して再度アーデンで再生・・・・あぁ〜〜?やっぱり右が出ない。いや〜な汗が・・・・^^;^^;
けっきょくこれはスピーカ側の問題だと、ユニットを外して内部を確認。それで分かった。
 
ここで言う機構部品・接続部品(以後機構部品と言う)とはいわゆるスイッチ、プラグ&ジャック、コネクタ、VRの類である。
筆者は、一応これでも電気機構部品の設計を生業の一つとしている。まあ、お恥ずかしいがプロと言っていいだろう。そのプロが言うんだから間違いないが、この機構部品は電子・電気機器の何てったって要なのである。これを無しにあらゆる電気機械器具は存在しない。マイコンが入ってない昔の炊飯ジャーでも飯は炊けるが、電気を接続する部品がなくてはどうしようもないのだ。
今回は無視されがちで地味なそんな機構部品にスポットを当てよう。

とは言え、現代のあらゆる電子・電気機器の花形はやはり半導体とそれを集積したCPUに代表されるプロセッサやマイコン、メモリの仲間だろう。PCやAV機器は当たり前として、現代では白物家電とも呼ばれる家庭で必需品となった電気製品にもほとんど使用され制御の重責を担っている。しかしクドいようだが、電気が通らなくてはそれらはなんの役にも立たない。
電気を通し、回路間を接続し、あるいは出力として取り出すのに活躍するのが機構部品である。

一般に機構部品の材料は伸銅品と呼ばれる銅合金の薄板ロール材(巻き取ったリボンのような状態をロール材と言い、真鍮の他リン青銅、ベリリウム銅などがある)が使用され、それをプレス金型で打ち抜き&曲げ加工することで部品製造を行っている。これら一連の工程は少なくても数工程、多いものでは数十工程とあるのだが、これを1台(場合によっては複数台)の金型の中で連続的に行うのである。無地のロール材が投入され適当なピッチで送りながら、順を追って各工程が自動的に行われ、出てくる時にはもうちゃんとした部品形状をしている。この一連の流れ作業をする金型を「順送金型(じゅんそうかながた/あるいは単に順送型)」と言い、様々にあるプレス加工の中でもメインとなる加工法である。最終的にはそれら導体である銅合金を適当なエンジニアリング・プラスチック(=エンプラ/POM、PBT、PA等々(注記1))などで絶縁し、あるいは接点を付け開閉し、スイッチやコネクタとして実際に使用される完成部品となる。(注記2)

さて、ほとんどのAV機器はDC駆動、つまり直流の1.5V〜24V程度で動きコントロールされている。AC100Vコンセントに接続する機器でも、内部では直流に変換され動いているのが普通である。いわゆるACアダプタはその交流から直流への変換作業を本体の外で行い、その本体に直流を供給する装置である。この接続部は一般にアダプタ側に円筒形のプラグが付き、本体側にDCジャック(差込口)が付いているのはよく御存知だろう。ここでプラグとジャックを繋いだ時それぞれの導体同士は適度な力で押し合う状態で接続されるのだが、ここに筆者達設計者が常に問題とする接触抵抗という物理量が存在する。値は普通数十ミリオーム(mΩ)以下とされ、高くても200〜300mΩ(0.2〜0.3Ω)が天である。

以後模式的に、と言うか形式的に話すが、ここでDC6V/2Aで動作するポータブル機器があったとしよう。
正常なら6÷2で回路抵抗は3Ωとなる。
っが、先のACアダプタ接続口や電池端子部で普段は無視できる接触抵抗が、あるとき何かの拍子に0.5Ωになってしまった。
回路抵抗は3Ω+0.5Ωで3.5Ωとなる。
ここで電源の6Vが変わらないとすれば流れる電流は6÷3.5で約1.7Aとなってしまう。
これは大変である。元々2Aで正常動作する機器に1.7Aしか供給できなくなってしまったのだ。
マイコンはその変動に堪えられるのか?
アンプは正常に増幅してくれるのか?
モーターは正しいトルクで正しい回転数で回ってくれるのか?
・・・・・・・・

ってことで、こういう場合現代のポータブルAV機器では電源が切れた、あるいは電池寿命となったなどと判断し、ユーザー設定消失など思わぬ問題を起こす前にオートストップが働き使用不能となる。
機構部品がいかに重要な役目を担ってるか分かるだろうか?
それも前述のジャックなど、多くは部品単価にして高くても数十円の機構部品である。

鋭い人は気づいたと思うが、上の計算で言うと大電流を要求する機器ほど接触抵抗にはシビアであることが分かるはずだ。たとえばそれはビデオカメラや携帯電話やデジカメなどとなる。これらの機器では接触抵抗の問題が使用時間の長さや機能に直接影響する。

プラグを一旦抜いて差し替えてみたら、電池を一旦外して再度入れてみたら、その後何事もなかったように使えるようになった。なんて経験はありませんか?。またそう言うことを御存知でしたか?。特に電池(充電池も同じ)を使用するポータブル機器ではみなさんが思う以上にこの種の問題はたびたび発生します。先の携帯電話やデジカメとかで、やけに早くバッテリーがなくなっちゃったなーなどと思ったら、諦める前にせめて前述の差し替えくらいは試してみましょう。但し、バッテリーを外す前に一旦電源を切ることを忘れずに。(注記3)
 
さて、始めに戻ろう。
実はスピーカケーブルを接続する端子からエンクロージャのネットワーク(アッテネータ)へ接続ケーブルが伸びているのだが、その圧着端子が経年変化により破損し外れていたのだ。
一般にこの種の圧着端子はプレス加工の中で左右に円筒状の大きな曲げを行い作られているのだが、その応力は強大で端子にミクロなクラックを起こすことが多い。って言うか、顕微鏡で見れば状態の善し悪しはあってもほとんどクラックが入っているのである。それが端子同士を差し込むことによる長年の応力に堪えられず、ついに破損に至っていた訳だ。そりゃ四半世紀も経てば十分あり得る話しだろう。
スピーカに限らず、ある日突然音や映像の調子がおかしくなったなどと感じたマニアなあなた!高価な○○ケーブルなんてのを揃えるのもいいが、それと共に接触抵抗を持つ端子部分のチェックを忘れずに!

ついでに、古いテレビやラジカセなど使っていて、時々映像が出なくなったり歪んだり、あるいは音が小さくなったり出なくなっちゃった経験はありませんか?。これ、多くはどこかの機構部品が接触不良(良くあるVRのガリもこの一つ)を起こしているのが原因です。筐体を軽く揺すったり叩いたりすると復活するようなら、もうかなりの確率で当たりです(半田付けの問題というのもありますが)。プロが見ればだいたい見当は付くもので(って言うか、接触不良を起こす機構部品は大概決まってる)チョチョイのチョイで直っちゃうけど、お馴染み「高電圧部分があり危険」なんて貼り紙や注記があり、一般のみなさんは手を出してはいけませんよ!
 
っで、ここを読んだ人だけに内緒で教えると・・・・、
ほとんどは寿命と言うほどの、そして買い換えるほどの問題じゃありません!!この種の症状で「もう、寿命だねー!」なんて最後通告を言いたがる販売店は怪しいと思いましょう。良識ある、そして技術のある販売店さんなら、チョチョイのチョイで直してくれますよ。たぶん!?

更に言うと、よく古いAV機器で「電源が入らなくなっちゃった」と言うことがありますよね。あれ、ほとんどどこかしらのショートや経年劣化によるヒューズ切れか、電源スイッチ(ロジックスイッチタイプはリレー)の接触不良が原因です。AC/DC問わず、ケーブル断線を除く電源が入らない理由全体のおそらく90%以上はこれでしょう。
特に高級AV機器や真空管機器では大きなトランスやコンデンサ及びコイル類を要すため、スイッチをON-OFFした際少なくても数10アンペアのラッシュ電流(突入電流/ダッシュ電流と言った方が字面は分かりやすい?)というものが流れます。瞬間なのでヒューズは切れずブレーカも落ちないけど、部屋の明かりが一瞬フッと暗くなった経験はありませんか? 掃除機等大電流モーター(コイル)機器でも同じ症状が起きますよね。この時スイッチやリレーの接点部分には大変な負荷が掛かり、それが何度も何度も繰り返される内に接触不良、場合によっては溶着してONしたまま逆に切れなくなります。多くの機器には一応の保護回路が入ってるでしょうがそれでも万全とは言えないし、高級機やハイエンド機器ではそれ自身が雑音源になると嫌われます。結果、高価な機器ほど電源スイッチに限らず接点への負担が高くなりがち。
先ほど「接触不良を起こす機構部品は大概決まってる」と言いましたが、それはたとえばこういうことなのです。

電源スイッチをON-OFFした際(スイッチ付きテーブルタップをON-OFFすると分かりやすい)、暗い場所だとピカッと光る火花(いわゆるアーク放電の類)を見たことある人もいるでしょう。あれはラッシュ電流によるものです。あくまで「自己責任!!」でと念を押しますが、電気に詳しくアナログテスターやピーク値測定できるテスターで電圧をチェックしてみましょう。ラッシュ電流が大きいほど一瞬の電圧降下となって症状が現れます。照明が一瞬暗くなるのもこのためです。
ちなみに、多くの白熱電球で切れちゃうタイミングがスイッチを入れた瞬間と言うのも、このラッシュ電流が原因です。
 
破損した接続端子 
破損した端子写真
茶色側端子左右に付くカール部分が基からポロッと折れ外れていた。左下2つの欠片がそれ。
通常外すような端子ではないので、修理は端子同士を直接半田付けしてOK。
アンプのステレオバランス中点でスピーカ左右のバランスが異なるようなら、こんな所も疑ってみよう。もちろんアンプ自身や部屋が原因である場合もあるが。
 
 
注記1
POM(ポリアセタール)/強靱で摩耗に強く成形性が良い。機構部品に最も広く使われているエンプラ。
PBT(ポリブチレンテレフタレート)/ペットボトルとして使用されるPET(ポリエチレンテレフタレート)の親戚。
PA(ポリアミド)/いわゆる一般に言うナイロンのこと。この仲間は非常に種類が多い。概ね強靱で耐熱性が良い。

注記2
プレスにより抜き曲げされた金属部品にめっきをしたり(めっき済の材料をプレスに掛けることもある)、主に射出成形によるプラスチック部品やカバーに組み込まれたりして完成部品となる。

注記3
乾電池や充電バッテリーの場合、一旦電源を落とし電流の流れをしばらく停止すると多少残容量が復活するということもある。また電池の種類にもよるが、たとえば一般のマンガン乾電池など小電流でちびちび使うと、意外なほど長く使えることがある。したがってクォーツの掛け時計など小電力機器にはマンガン電池で十分だろう。
ちなみにニッカド電池、ニッケル水素電池、最近ならリチウムイオン電池などの高性能充電バッテリーは大電力を短時間で使い切っちゃう使用に適し、マンガン乾電池などは前述のようにちびちび派である。アルカリ電池は中間派かな。
 
最終更新 2016年 5月31日
追記更新 2008年 6月21日
HOME       BACK