どっちが速い? バイク対F1  990901  No.30
 
最終更新 2004年4月29日
 
記者 : 「チェコGP、岡田(No.29「グランプリ」参照)がやりましたねえ。びっくりしちゃいましたよ。ファイナル・ラップごぼう抜きの優勝ですからねえ。」

天野 : 「びっくりした。俺も久しぶりに興奮しちゃったよ。やっぱり生中継はいいよな。
正直、クリビーレ(ポイント争いトップのスペインのライダー)には敵わないと思ってたし、あの時点で3位キープが精一杯かなって。それがファイナル・ラップでこのレースのファステスト・ラップだもん。あっと言う間に2位になったかと思ったら、あっと言う間に追いついて、これまたあっと言う間に抜いちゃった。たいしたもんだね、ホント。ああいうレース見せられるとますます期待しちゃうよな。
で、話は前回の続き。F1とオートバイ、サーキット走らせたらどっちが早いと思う?。」

記者 : 「えっ?それは・・・・やっぱりでもF1でしょう。何てったってレース界の最高峰ですから。」

天野 : 「あらま、当たっちゃった。」

記者 : 「話、終わらせちゃいました?。」

天野 : 「まあ、いいんだけどね。
バイクの最高峰は岡田が勝った2ストロークの500cc。4輪ではやっぱりF1。今は3500ccだったかな。もちろんノンターボ。アメリカのカートレース(インディーカー)も有名だけどあれはターボ車だし、どちらかと言うとオーバルコースのスピード重視ってレースが多い。燃料も違うし(カートはアルコール燃料)単純には比較出来ないかな。もっとも、F1を引退したドライバーがすぐカートや他のカテゴリーで優勝しちゃったり、時にはいきなりチャンピオンになったりするだろ。ってことはやっぱり、スプリントレースとしてはF1が4輪の最高峰と言っていいでしょう。まあ、耐久レースやラリーは車の作りからして全然違うからね。」

記者 : 「この前の話でも「あれっ」て思ったけど、バイクの500ccってそんなに早いんですか?。ナナハンなんかより小さいし、いくら2ストロークと4ストロークの差があると言っても、天野さんのあのでかいバイクなんか1100でしょ。倍以上じゃないですか。」

天野 : 「いやいや、やっぱりエンジンも車体もレース車と市販車じゃ、いくら排気量に倍以上の差があったって比較にならないよ。」

記者 : 「はあ?」

天野 : 「まあ自慢になっちゃうようで恐縮だけど、確かに今乗ってる俺のバイクは早い。その気になれば豪快な加速するし、1速(ロー)で100km越えちゃうからね。元々カワサキが意地をかけて量産市販車最速を狙って開発した奴。その後各社が負けてられないと同じようなスポーツバイクを開発したけど、それでも今でも最速クラスには違いないだろう。0〜100kmまでの加速に3〜4秒、条件がよけりゃゼロヨンで10秒切るかどうかなんて言われている。最高速もノーマルで300kmくらい。俺も240kmくらいまでなら試したことある。それでも全然余裕だった。もっとも日本じゃそんなに早くてもほとんど意味無いけど。
バイク好きならよく知ってると思うけど、逆輸入のフルパワー仕様ってやつ。馬力だけならロードスターよりずっと大きい。」

記者 : 「へえーっ!凄いとは聞いてたけどロードスターよりバイクの方が馬力あるんですか?。僕の車もそれじゃ負けてますよ。」

天野 : 「俺のロードスターは初期型だから1600ccの120馬力。小さい割には1トン近い車重もあるからみんなが思ってるほど早くはない。ロードスターの魅力はそういうスピードとか力じゃなくて、その気になればヒラリ・ヒラリと身をかわす運動性とバランスにあるよね。それでフルオープンにもなるんだから文句はない。そもそもバイクと車じゃ馬力の計り方も違うみたいだし、魅力としては単純にゃ比べられないな。」

記者 : 「それにしても・・・・」

天野 : 「あのバイクは230kg程の車重を147馬力で引っ張る。俺が乗ってまあ約300sとすれば馬力荷重(重量/馬力の数値=300/147)は2kg程度ってとこ。そりゃーロードスターはもちろん、その辺の一般市販車じゃ勝負にならないよ。だからこそ逆に乗るには自制心も必要になる。
ところが2ストロークで500ccのレース仕様車って言うと、馬力はともかく車重が100kg程度しかない。人が乗っても馬力荷重は1kg前後。いかに凄いかわかるよね。1kgって言ったらF1と同じくらいだよ。バイクは人の体重が全重量に占める割合が大きいから、車両単体の馬力荷重ならむしろF1より上ってことだよな。」

記者 : 「なるほどねえ。計算上はそうなりますねえ。そういう意味じゃ確かにF1と比べたくなるくらいの早さはあるってことですね。」

天野 : 「ところがそんなモンスターマシンでも、サーキットでのレースタイムをF1と比べると大きな差があるんだよ。
たとえば鈴鹿サーキットを1周するのに、F1と500ccのバイクじゃだいたい30秒も差がある。結論としちゃあさっきおまえが当てたようにF1の方がずっと早い。F1は1分40秒ほどで1周しちゃうんだけど500ccだと2分以上はかかる。しかも面白いのはバイクの3クラス中一番小さな125ccと500ccを比べると、これが10秒くらいのタイム差しかない。クネクネ低速サーキットのザクセンリンク(ドイツ)なんか、125ccと500ccの差がわずかに3秒程度。おまけに500ccより250ccの方が早かった、なんていう珍現象まであったりして。
不思議だろ?。」

記者 : 「ですねえ?」

天野 : 「どうしてこんなにF1と差が出ちゃって、逆に125ccと500ccで4倍も排気量の違うバイク同士だと差が出ないんだろう?。ま、一言で言っちゃうとそれが4輪と2輪の主にタイヤ周りの差と言うことになっちゃうんだけどね。」

記者 : 「タイヤですかあ・・・・?」

天野 : 「いわゆるグリップって奴かな。
たとえばトップスピードからフルブレーキングしてコーナーを曲がるとする。こんな時F1は前輪2本の路面との接地面が横一の線となって食い付いてくれる。ところがバイクは前輪1本で路面との接触部はほとんど点に近い楕円。線と点の違いだね。バイクレースでは後輪が浮き上がる程のハードブレーキングが見られるけど、前輪なんかチョット滑ればすぐ転倒につながっちゃうだろ。いくら車重が軽いとは言え、やっぱりどう比べたってバイクの方が止まりずらい。仮にF1だとコーナーの手前100mでブレーキングすれば十分なところ、バイクでは200〜300m手前からブレーキングしなくっちゃならないっていう感じ。」

記者 : 「確かに4輪はたとえ滑ってもそうコケることはないけど、バイクで前輪が滑ったら即コケちゃいますよねえ。」

天野 : 「おまけに路面へのタイヤの食い付きっていうことじゃ、当然加速するにも4輪の方が有利だよな。たとえスピンしながら発進(加速)しても接地面が大きい分グリップの回復も早い。何てったって2輪のようにウィリーってこともないからね。
そして実はこれが一番の違いなんだけど、コーナリングスピードがF1とバイクではまったく違う。これはもう比べちゃうと悲しいくらい差が歴然。バイクは車体を倒してコーナリングするけど、そりゃ限度ってもんがある。この辺はバイク同士あまり排気量による差も無いんだよね。しかもタイヤのグリップが点に近いのはこっちも同じ。4輪のように外側のタイヤが踏ん張っちゃくれないし、スリップダウンやハイサイドの危険もありコーナリング中の加速にも気を遣う。だからコーナーに関してはスピード自身500ccも125ccも大差ないんだよ。排気量に4倍もの差があって周回タイムにあまり差がないってのはこういう理由。逆に500ccは力がありすぎて、コーナリング中や立ち上がりでスピンしやすいっていう弱点が大きい。さっきのザクセンリンクなんかいい例。まあ、コーナーが少なくてストレートが長かったりアップダウンのきついパワーサーキットなら、もっと排気量による力の差がタイム差となってはっきり現れるだろうけど。」

記者 : 「なんか盲点のようですねえ。やっぱりF1が一番なんだ。」

天野 : 「スプリント・レースということではそういうことだね。
でもF1はともかく、2輪と4輪の市販車同士で比べたらバイクの加速ってのは凄いよ。信号なんかで車はバイクにあっと言う間でおいてけぼりになっちゃうことがあるだろ。バイク乗ったことの無い人はわからないかも知れないけど、あれはそれほど無理して引っ張ってる訳じゃない。普通に発進しても中型以上のバイクであれば車より十分早いんだよね。ただ注意しなくっちゃならないのは、止まるときはまったく逆だってこと。「加速はいいけど止まらない」ってのが真実。パニックブレーキで安全に止まるには車の倍以上の距離が必要だと思っていい。車のドライバーはその辺のところを十分承知しといてほしいよね。特に後ろにバイクがついてる時など、気になるようなら抜かせてやった方がオトナの対応というもの。間違っても急ブレーキをかけちゃならない。」

記者 : 「なるほど、了解しました。」
 
2003年9月20日追記
最近、環境問題への配慮などからレギュレーションが改正され500ccクラスはモトGPクラスと代わり、4ストロークエンジンのいわゆるリッターバイクがレースの主流になりつつある。力もスピードもこれまでの2ストローク500ccクラスを上回る結果を残している。
 
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