わっからねえなあ  990314  No.23



天野 : 「どうも俺は以前にも言ったように頭の回転が鈍いせいか、この歳になってどうしてもわからねえことが多い。」

記者 : 「どういうことですか?。」

天野 : 「たとえば東京なんかさあ、いくら都心で便利とは言え、わずか20〜30坪の3LDKくらいのマンションが5000万円もするんだろ。それでもバブル全盛期の半分以下って話だし、下がったとはいってもこの価格なんだからどうかしてるぜ。
群馬のこの辺にでも引っ越してみろよ。5〜6000万あれば150坪くらいの土地に50〜60坪の豪邸が建つよ。」

記者 : 「そうですねえ。豪邸まではわからないけど、けっこうな物にはなりますよねえ。」

天野 : 「水は旨いし断水も水不足もまず心配ない(例外的な場所もあるが)。下水道も問題なし。ガソリンは国内でも一番安い過当競争地域だし、最近なんかリッター当たり60円台なんてスタンドもある。他のエネルギー関連だってもちろんOK。地震も関東大震災以来震度3を越えたことはない。雪だって東京とほとんど変わらないだろう。西と南には二重三重に山を抱えてるから、夕立以外は集中豪雨なんて心配もほとんどない。
去年9月に関東を直撃した台風5号の際はさすがに大雨となって、およそ20年ぶりくらいに川が大きく増水したけど、それでも付近の実質的被害は他の近隣都県に比べ小さいものだったね。この辺の川は河岸段丘が発達してるから、たとえ大水が出ても被害は河川敷のグランドなど一部に限られちゃう。まあ災害と呼べるものは夏の雷雨が時々あることくらいだけど、農家でなければ直接被害を被ることは少ないだろう。
そう言うわけで暮らすにはこんなにいいとこないと思うけどねえ。
もっとも、内陸だから東京よりは夏暑くて冬寒いと言えるけど。

記者 : 「ええ、それには僕も納得ですね。暑い寒いと言ったって、特にあのビルや路面からの輻射を考えれば夏なんかいい方ですよ。」

天野 : 「そうだよな。
東京が仕事の都合だとか物質的に便利なのはわかるけど、何も山中に住もうと言ってるわけじゃなし。この辺だって車で30分も走れば高崎や前橋があり、大手百貨店の多くも進出してるだろ。あまり特殊な物を探そうとするとちょっと群馬では事足りないこともあるけど、それは例外的な場合。
東京に出るにしても高速で1時間、都心まで2時間足らず。新幹線通勤なら高崎から東京駅まで1時間足らず。ここから通うとして自宅までの足を入れたって2時間見ればOK。2時間て言えば都内での平均通勤時間と大差ないだろう。」

記者 : 「まあ時間的にはそんなところですよね。」

天野 : 「それに何より、東京は今後いつ起こるかわからない関東大震災級の地震だって心配がある。学説としては東京湾付近を震源にした南関東直下型だとか、駿河湾などの静岡県付近を震源にした東海地域が心配されてるのはよく知られてる通り。実際、歴史的事実としてコンスタントに60〜70年おきくらいに大地震が関東で起こってるだろ。それがすでに前回から80年近くも起きてないんだから、誰が考えたって今後十数年以内の危険性というのは想像がつくはず。もし真っ昼間にそんなのが起こってみろよ。阪神淡路大震災の比じゃないほどの壊滅的打撃を受けることなんて間違いねえだろう。0m地帯や埋め立て地、下町の密集度合いや交通条件など、その広さと過密さといったらこう言っちゃ悪いけど神戸の比じゃないんだから。最悪の場合10万人以上の死者が出たってまったく不思議じゃない。間違ってそんなのが今年起こっちゃったら、それこそノストラダムスの予言の正体だったなんて笑えない話になっちゃう。」

記者 : 「未だ地震予知が出来ない以上、確かに言われればそんな心配もわかりますよねえ。」

天野 : 「俺にはそんな土地に家族を住まわせるなんて絶対出来ないけどね。
買い物や遊ぶに便利なところは多いけど、それだけだよな。演劇やコンサートとなるとさすがに地方では難しい面もあるけど、その気になればインターネットの時代なんだからチケット購入だって別に困難じゃない。だいたい普通はそうたびたび見られるもんでもないしね。逆に東京だと自然の山や川で遊び回るなんてわざわざ出掛けなくっちゃ出来ないだろう。結局こっちに住んでて必要な時だけ東京に出かけりゃ事足りちゃうもんな。どうしてそんなに東京ばかりにしがみつこうとするのか俺にはまったく理解出来ねえよ。」

記者 : 「僕もこっちに住んでるから言いたいことはわかります。ただ天野さんが自然を好むように都会の雑踏を好む人もいるんじゃないですか。まわりに人が溢れてないと寂しさを感じるような人って。」

天野 : 「確かにねえ、そういう人もいるんだろうなあ。お節介と言われればその通りかもな。だいたいお節介が大嫌いな人間がお節介を焼いてちゃうまくねえよなあ。
ま、しかし、たとえばもう数年して、光ファイバーや衛星関連の双方向通信インフラが整備されれば、業種によっては仕事上での東京との差はほとんどなくなっちゃうだろう。通常の打ち合わせ程度はTV会議で行い、月何回か、あるいは重要案件や契約の時のみ会社で座を交えるってことにね。
従来の日本的商慣習は決して簡単にはなくならないと思う。だけど、かといっていろんな面で世界と伍して行くんだったら、変わらずを得ない時期はすでに過ぎてる。しかもこれは三次産業や大手企業だけの話じゃない。一次産業も零細企業もスタートラインには並んでると思っていいだろう。つい従来の商慣習ばかりでやってたら、気付いたときには仕事相手も友人もいなくなっちゃったりして。
とにかく世界に開かれる方向に向かうことは間違いないと思っていい。そういう日本的慣習が通らなくなりつつある方向に進んで行くことでしょう。さて、そうなった時に臨機応変にすぐ対応できる人はいいけど、そうじゃない人は益々ストレスが溜まりそうな状況になっちゃうわけで。それこそ身の回りの安全性や心休まるような自然環境の豊かさが、大きな意味を持ってくるのはあきらかだと思うけどね。
心の余裕があらゆる面で差となって出て来る日は案外すぐそこだって感じねえかなあ。そんなストレスを貯めないためにも、解消のためにもね。
もっとも別に不動産業者に肩入れするわけじゃないし、この土地に人が押し寄せるようになっちゃって自分の周りまで変わっちゃ困るけどね。やっぱりいつまでも変わらず緑豊かな土地であってほしいって願ってるから。」

記者 : 「それは矛盾ってもんですよ。」

天野 : 「まあな、今までの話は忘れてくれって。」

記者 : 「もう遅い。」

 

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