水野時計/8インチ八角尾長掛け時計
 
概略寸法 高52cm×幅30.5cm×厚み10.5cm
文字板 8インチ/オリジナルペイント文字板
仕 様 8日巻き/渦ボン打ち
時 代 明治25年 〜 数年内
 
水野伊兵衛は明治25年、名古屋市東橘町に水野時計製造所を設立します。しかしすぐ翌年、五明良平らが同じ町内で設立した愛知時計と合併の運びとなりました。どうもこれが対等合併という訳では無さそうで、腕を見込まれた?はいいとして、けっきょく大資本に呑み込まれたと見るのが適当かもしれません。
元々水野時計のロゴであった「○S」は愛知時計最初期のロゴとして受け継がれ、名は消えたけどマークは残したと言うのが実際のところどんな経緯だったのか気になります。

さて今回紹介の時計は何の変哲も無い八角尾長(合長よりちょっと長いので尾長としておきます)です。堂々と「MIZUNO」を名乗りつつ愛知時計との関係性も色濃く、更に筆者としては初めて見るロゴの付く不思議時計が出てきました。

尚、古時計メーカーとしては他に、明治29年水野信次郎が設立した同じく水野時計がこれも同じ名古屋(城番町)にありました。伊兵衛との関係性を示す資料は今のところ無さそうですが、とりあえず詳細不明としておきます。
この項では機械の古さや各部の特徴、愛知時計との親和性から25年設立の水野時計として以下に説明&レストア状況をコメント致します。しかし上述通り初めて見るロゴですので確定情報ではありません。念のため29年設立所である可能性も含めご理解下さい。
 
入手時状態

筐体に目立つ欠損はありませんが、当たりや擦れによるペイント剥がれが筐体・文字板ともにそれなりにある状態です。
経年から考えればそれでも良くオリジナル状態を留めている方でしょう。
 
背面に書き込みやユニオンラベルの貼り跡はありません。赤い何らかのラベルの残骸が残ってますが、木肌に白残りが無い事から近年貼られたもののようにも思われます。
掛け金は2本留めの中京の時計に良くあるタイプです。
 
毎度動かないというジャンク入手の時計ですが振り竿振ると反応はありました。っで、ここまで傾けて振り子が内面に当たりそうなギリギリのところで動作確認でき一安心。
こりゃ振りベラ曲がってんな・・・・
 
レストア開始

それではと文字板を外してみて、文字板・筐体とも捨て穴の無い1:1嵌合の4本留めです。多少のペイント剥がれはありますが、この時代の文字板としては良く残ってる方でオリジナルに間違いないでしょう。背面に目立つ書き込みはありません。

機械はこれも中京系で良く見る角切り地板の古手機械です。幸い振りベラの曲がりも大したことなく、全体に状態良さそうな機械でした。
 
機械と筐体も1:1ネジ穴嵌合のオリジナルに間違いないでしょう。
筐体内部も思いの外きれいでした。
 
外形シャーリングカットの角切り地板機械です。
曲がっていた振りベラは真っ直ぐに直しました。これだけでレストア完了後、普通に垂直掛けで何ら問題ありませんでした。

中央に右上の刻印があります。
素直に読めば機種番または製造番18で、明治32年2月製作の時計。ただ水野時計の操業期間はイマイチ不確かで、長くても愛知時計と合併した後せいぜい数年内まででしょう。よって明治20年代にはおそらく閉鎖してると思われます。いずれにしろ資料が無いので刻印の意味は藪の中?
また上下を分けている楕円に線を延ばした水平線は、左側が尖っていて右側はどん詰まりと針を表してるように見えなくはない?

ラチェットを止めてるこはぜは微妙に形が異なり、リベット形状の違いから右側運針ゼンマイのこはぜは後年交換されてるようです。(左のこはぜリベットは雁木車を留めてるリベットと同じ)
また古い機械なのにゼンマイの側面カバーが付いていますが、上述のこはぜ修理の際追加されたものかもしれません。もっとも同時代の愛知時計でもこの例はありますので、オリジナルかもしれずその辺はなんとも?
 
裏面も多少の直しはあるけど特に問題は無さそう。
ってことで、機械は一般的な洗浄&注油のみで難なく完了。
 
もっとも興味を引いた振り子室ラベルです。
水野時計としては「○S」のロゴしか知られてないと思いますが、筆者としても初めて見るロゴが出てきました。関係の深い愛知時計そっくりのラベルですから、伊兵衛の水野時計には間違いないと思われます。
ロゴの「SMCI」の意味はなんだ?と考えつつ・・・ふと閃きました。これを「IMSC」または「MISC」と読めば、「伊兵衛水野(水野伊兵衛)スプリングクロック」なんちゃって!?

下の写真はほぼ同年代と思われる手持ち愛知時計の振り子室ラベルです。社名下の4行にわたる英文は同一のようです。全体のデザインもほぼ一緒。書体の組み合わせも同じようだし、ロゴ上の「SPRING」の後の「CLOCK」と「CO」の後のピリオドの有無、コインを並べたような飾り枠とかが異なります。
 
ボン台は無名鍔付きのドーム型。初期愛知時計でも使用され良く見るタイプです。
音はやや甲高く歪を含んだ響きで、他の時計と一緒に鳴っても分かりやすい。
 
やはり初期愛知時計で良く見るタイプの振り子です。精工舎と違って凸部分が尖らず丸まってるのが特徴。

分針(長針)は遅れ側に1分ほど後曲げされていましたので、スペード形状の基を真っ直ぐに直しました。これでちゃんと正時を指して鳴ります。なぜ曲げたのだろう?
 
レストア後動作確認中の時計と、一つの鉢植えが二つに見えるくらいのも〜〜〜んの凄いゆらゆらガラス。
 
最後に白浮きした塗装剥がれや擦れ部分に水性ステインのマホガニー色を塗り目立たなくして完了(トップ写真参照)。

余談ですが、
筆者も以前は、より一般的な油性ステインを当たり前のように使用していました。ただちょっとした塗り作業のたびに筆や刷毛を溶剤で洗うのはとにかく面倒。大面積塗るならともかくあくまで補修の範囲なので、飛び飛びの塗装剥がれ個所とかちょこちょこ。特に塗り重ねる時とか、数10分待つたびに一々洗浄なんてとにかく面倒な事この上ない。かと言ってほっぽっておくと筆先がすぐ固くなっちゃうし。
その点水性なら普通に水洗いするだけ、って言うか空き瓶とかに水を入れて筆先を浸けておくだけの手間いらず。もちろん臭いもしないし、溶剤に弱い方も安心だし発火等の危険も無い。仕上がり状態だって油性とほとんど遜色ない。油性ほどには乾きが早くないけど逆に濡れてるうちなら拭き取りやぼかしも簡単。とは言え、その乾きも2倍見当くらいでそこまで大きな違いはありません。時期にもよりますが概ね30分から1時間も待てば塗り重ねに問題ないでしょう。直しの着色にはお勧めです。
普通の木製品であればマホガニーの他にウォルナットとチークの3色があれば、塗り重ねる事でほとんどの色はカバー出来るでしょう。
尚、ステインはあくまで着色剤なので、ニス等で上塗りしたい場合は仕上げ塗りが必要です。筆者はあくまで白浮きした部分の補色目的なのでニス等塗る事はありません。
このタイプの白とベージュとかで、剥がれの激しいペイント文字板の補修色を調合出来ればなーと何度考えた事か・・・^^;^^;
 
 

参考/初期愛知時計振り子室ラベル
上部の○Sが水野時計のロゴですが、ラベル&時計自身は愛知時計名義のものです。
全体のデザインは紹介時計と異なるものの、下側4行の英文はこの時から書体を含め変わりありません。
 
 
追記更新 2021年 9月10日
新規追加 2021年 7月10日
 
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