CRESCENT(クレセント)時計/木製橋梁型筐体置き時計
最終更新 2010年 8月13日
 
レストア完了写真
概略寸法 幅24cm×高さ14cm×厚み6cm
文字板 径9cmペイント文字板
仕 様 8日巻/テンプ振り
時 代 昭和中期頃
 
CRESCENTと名の入った木製橋梁型筐体の置き時計です。残念ながらメーカーの詳細は分かりません。同じ月星マークでは時計業界老舗の一つ大阪時計や、スタイナイト工業所の時計が存在するようです。しかしこちらはスタイナイト樹脂ではなく木製筐体で、裏面にかすかに残る昭和20年代と思われる書き込みからも時代が一致しません。
⇒追記参照

ご覧のように渓谷を渡る鉄橋をモチーフとしており、世にあれこれある変わりデザインの時計の中でもけっこう目立ちます。どこかの鉄橋の開通記念でしょうか? だとしたら線路が描かれてる訳ではないので自動車道でしょうね。それともデザイン的な面白さを具体化したもので、特別な意図を持ってるものではないのでしょうか? 残念ながら筆者にはまったく分かりません。類似デザイン、あるいは類似品自身見たことも無いので、それなりに珍しいことは間違いないと思います。

このデザインって量産していたのでしょうか? 情報をお持ちの方がいらっしゃればお教えいただければ幸いです。
 
 
入手時外観1

入手時外観2
入手時外観

パッと見の汚れやスレはありますが外観はそれほど悪くありません。
渓谷を模した粗彫りの木製筐体上にブリキ製の橋が架かり、やや右に傾いた時計部がその間に挟まって配置されています。後面左にはほとんど消えかけた金文字で「昭和廿??? 飯野??? 舞鶴??製作」などとあります。
ゼンマイは時計部後面同軸上の香箱内にあり、大きなツマミが付きます。8日巻きゼンマイの置き時計では良くあるタイプですね。
底面を見ると、なぜか以前の補修で時計本体がオリジナル位置から1cmくらい、前側にオフセットして取り付けられていました。
 
時計部取り出し
時計部取り出し

レストアのため橋梁型筐体から時計部を取り出します。
底面のナットを緩め時計を取り出そうとしますがそれだけでは外せません。仕方なく底面の筐体を留める木ネジを緩めるとそちら側がクイッと持ち上げられるようになっており、どうやら元々こうして外すものだと分かりました。
時計の丸い筐体もくり貫かれた木製です。
 
入手時機械
入手時機械

ゼンマイが目一杯巻かれた状態で動かないというジャンク機械です。
木製のドーナツ状枠から3個のナットを緩め機械を取り出すと・・・・^^; けっこう錆び錆びでまったく油っ気ない機械が現れました。これじゃーいくらゼンマイ巻いたって動きようがないですよね。気を取り直してルーペで観察し、それでも錆は表面にとどまっているようで、こうなった機械では朽ちてることの多い各部の細ピンやヒゲゼンマイも幸い大丈夫そうです。
それじゃーとエアー吹き、556吹き、再度のエアー吹きコースできれいにし、こちょこちょテンプを揺すっているとそのうちぎこちないながらも動き始めました。やがてだんだん調子も上がってきて、寝かせた状態なら問題なく動いています。(^_^)vヤッター!なんて思いながらしばらく様子を見ることにしました。

数時間後、突然「ジャン!」という大きな音にびっくりしてそちらを見ると、時計がかすかに揺れています・・・・^^;
 
切断したゼンマイと機械部品
ゼンマイ状態

一目で、って言うかその音は一聴きでゼンマイ切れを納得させるものでした・・・・この音聴くの何回目だろう?
C環を外してまったく力のない香箱を開けたのが上写真の状態です。取り出したゼンマイもご覧の通りで、上写真で言えば右の香箱内面に貼り付いていたゼンマイが左の軸側に向かって螺旋を描きはじめる、まさにその部位での切断でした。両端部と共に応力のかかりやすい部分ですね。
 
ゼンマイ接ぎ1

ゼンマイ接ぎ2
ゼンマイ接ぎ

しばらく探したのですがこのタイプでは上手く合うゼンマイが見つかりません。そこで、筆者もあまりやったことのない接ぎ直しをしてみました。
繋ぎ方は色々あるようですが、このゼンマイは香箱に入り両側にワッシャー状のカバーもあることから、最も簡単な引っ掛け爪を切れた部位に加工します。あくまで自己流のためプロからは笑われそうですが、それでも何らかの参考になればと以下に紹介しておきます。

左上写真が切れた部位です。加工はまずその切断部から20〜30mm内側をヤットコで摘み、アルコールバーナーで炙ります。写真のようにすぐに色が変わって来ますので、筆者の場合色変わりしてから15〜20秒程度を目安に炎から離します。自然冷却した後金鋏で切ると、まだけっこう固さを残していることが分かります。頑丈な板金用専用鋏でないと切れないでしょう。ヨレヨレとなるほど完全に焼き鈍しちゃうと、かえって下記のグラインダー作業等がしづらくなります。すぐひょろんと曲がっちゃいますので。
バネとしての固さを残しつつ鋏で切れる程度の固さでもあることが、組み上げ後の応力負荷に対する寿命を考えても重要だと判断したからです。その意味で鋏で切ることは状態の確認でもあった訳です。

マジックでおよその形状をマーキングした後、先の細いグラインダーで削り込み精密ヤスリで仕上げます。引っ掛け部分に鋭角や傷が残ると切れやすくなるので注意し、外側の角も香箱内面に引っ掛からないようしっかり丸めておきます。
 
香箱入れ1

香箱入れ2
香箱入れ

ゼンマイの先端を香箱の爪に引っ掛け、外側から内側に向かって押し込みながら巻いていきます。8日巻きゼンマイとは言え置き時計の小型機械ですので、特に困難はありません。それでも途中で力を抜くと危険ですので、手など傷つけないよう注意が必要です。ホントは軍手とかした方がいいでしょう。

外側のバネを巻き終わった後、加工した部分を引っ掛け内側のバネを押し込みます。ちょっと分かりづらいのですが、ゼンマイ巻き上げの際外側のバネを引き込むよう、緩む時に内側のバネが素直に膨らむよう、引っ掛け部分は内側のバネが外側のバネ端面に乗り上げるように引っ掛けました。最後にワッシャー状のカバーと軸となる歯車(1番車に相当)をポコンと押し込んで完了です。

通常ゼンマイは最後まで緩むことはありませんので常に引張のテンションがかかっており、この程度の簡単な接ぎ直しでも外れることはないはずです。
 
メンテ済機械と部品類
機械と部品

機械内部の目立つ錆を竹ひごなどで擦り落とし、再度丁寧にエアー吹き、556吹き、エアー吹きコースを行いしばらく寝かせておきます。あらためて注油し直して機械はOK。先の細ピン類とヒゲゼンマイに問題なかったのが救いでした。

右は機械周りの部品一式で、ガラスは凸面ガラスです。
 
文字板
文字板

文字板はベースとなる絞りの鉄製枠にアルミペイント文字板という二重構造です。多少の汚れなどありますが目立つ傷みはなく、経年のいい雰囲気です。
 
機械外観とロゴ入りツマミ
機械外観とロゴ入りツマミ

文字板ベースと機械は3個所のピンで固定されます。所定位置に差し込んで、横からサスマタ状のピンを差し入れて固定。

針回しのツマミにもしっかりロゴが刻印され、なんだかメーカーの自信が感じられるようです。
 
傾き修正
傾き修正

時計の傾きは思いのほか気になるものです。左上写真のように時間目盛にして1分程ですから、5〜6度程度の傾きでしょうか。原因は木枠に対してアルミ枠が傾いて取り付けられていたことによります。ガッチリ嵌ってたアルミ枠をゴムハンマーで叩き出し、修正したのが右上の状態です。

後はオリジナル位置に時計を取り付け、完成したのが最初の写真です。
切断部を繋いだゼンマイもしっかり機能して、8日巻きとして問題なく復活を果たしました。
 
2009年 7月 2日追記

CRESCENT時計についてその後調べ直してみて、明治中期に創業した大阪時計直系の時計ブランドであることが分かりました。大阪時計は明治中期、近隣の有名時計商により創業し掛け時計生産を開始します。その後間もなく懐中時計や置き時計に重心を移していき、その頃のロゴがこの時計のロゴと同じ月星マークであることが分かっていました。クレセント時計は大阪時計代表者の1人石原久之助が設備を引き継ぎ、後の石原時計店がその母体であることが分かりました。石原時計店は現在でも大阪で盛業中です。

石原時計店
 
新規追加 2009年 6月12日
 
 
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