2002/9/18  生分解性プラスチックのお話U
 
27.化学合成系生分解性プラスチック/PBS系その2
 
PBS系生分解性プラスチックは前回述べたように、現時点における生分解性プラスチックの雄であり、乳酸系と共にもっとも期待されている材料である。ここではその中から現在国内でもっとも広く使用され、また入手しやすいと思われる「ビオノーレ(以下PBS系と表記)」を中心にお話ししてみよう。
1.温度特性
成形温度域は概ね150℃〜200℃程度とし、170〜180℃を中心に設定すれば大きく問題となることはないだろう。他の生分解性プラスチックと比較して熱的にも安定性に優れることから、ことさら神経質になることはない。もちろん射出自身は200℃以上でも問題なく可能だろうが、結晶性プラでもありあまり温度を上げても意味はないと思われる。
加熱筒内での長時間滞留にも比較的強く、異物の混入や余程の高温長時間放置でない限り分解に至る可能性は少ない。汎用プラなら当たり前であろうこの熱的安定性も、生分解性プラスチックの中では大きな利点である。
2.流動性
生分解性プラスチック普及の過渡期である現在は、ある程度絞られた流動性グレードからの選択になるだろう。しかし将来的には汎用プラなみの広いグレードから、製品仕様に合った流動性で選択可能になるものと思われる。この辺のグレード設定は化学合成系一番の強みでもあり、他の物理的性質と共に今後に大いに期待したい。
尚、ここではPBS系プラの射出グレードとして一般的と思われる、MI15〜20程度を想定している。この範囲では一般射出グレードのPEに近似した流動性と思ってよい。
3.固化とバリ
PBS系プラも他の生分解性プラスチックと同じく、一般プラスチックと比較して固化が遅いという特徴を持っている。PBS系プラの固化はプラスチックそのものが比較的柔軟で流動性に優れる分、私感としては生分解性プラスチックの中でも遅い部類ではないかと思われる。したがって射出及び保圧条件によっては非常にバリが出やすく、シビアな条件設定を要求されることが多い。PBS系プラで安定した良品を得る為には後に述べる金型側の対応はもちろん、成形機もそれら条件的要求に応えられるよう選択せねばならないだろう。過渡特性や応答性に優れたフィードバック制御型成形機や、最新の電動成形機などあれば理想的かもしれない。また逆説的ではあるがそのような制御が機械的に難しいようであれば、むしろスクリューの磨り減った成形機の方がバリに対しては好結果を生む場合も有り得る。
尚、充填完了直前の圧力及びスピードの切り替えタイミングなど、成形機に設定可能な最小単位で見極めを行うと共に、必要以上な保圧設定などには十分注意しよう。更に先のタイミング等とも関係しショットごとの射出量が一定でなければならず、適度な背圧を設定しなければならない。実際の成形時にはそれらのバランスが特に重要で、製品や加熱筒内に掛かる残留圧力を段階的に上手く抜いてやるように設定すると良い。
4.金型冷却
前項に関係し、固化の遅いPBS系プラ成形時の金型温度は一般に低めに設定することが多く、概ね人肌程度が適当と思われる。但し、結晶性プラでもあり、あまり低すぎては本来の性能を発揮しない危険性もあり好ましくない。元々現段階で生分解性プラスチックに高度な物性を要求してはいけないのだが、その辺は製品の使用用途や成形サイクル(=コスト)とも十分考慮しておく必要がある。
尚、経験的には製品の物性面で特にうるさくなければ、20℃以下の低温としても成形上支障はない。但し、一応ポリエステルでもあるので結露などには注意したい。
5.取り出し
PBS系プラは金型に密着しやすい傾向が顕著である。金型表面の転写性も極めて優秀でわずかなケガキ線などでも良く写し、特にナチュラル材料を使用した薄物成形品ではこの傾向が著しい。ポットなど深い物は時に成形機の型開きさえ出来ない状態となることさえあり、対策に苦慮することとなるかもしれない。また材料自身にも伸びがあることから、このような製品では突き出しピンだけの取り出しでは困難となる場合が多く、白化や凸凹など外観異常が非常に出やすい。トレイやポットなどこのような板物製品の取り出しでは、必ずエアーブローを併用したい。併用さえすれば一瞬で解決することを疎かにして、無用な不良など作らないようにしよう。
6.材料取り扱い
PBS系プラは他の生分解性プラスチックと比較して化学合成系ならではの比較的安定した性質を示し、成形作業上の取り扱いは一般のプラスチックと同様で差し支えない。もちろん材料の取り扱いと成形作業、または良品を得ることは必ずしもイコールではないが、生分解性プラスチックの中には保管方法一つをとっても気を遣うプラもあるのだ。
7.材料乾燥
前回もお話ししたように他のポリエステル系プラほど厳格ではないにせよ、やはり成形前乾燥は必須である。一般的には70℃/5〜6時間程度を基本にしておけば問題となる可能性は少ない。
8.材料パージ
成形後のパージ作業は一般に行われる汎用プラによるもので支障ない。知る限りでは特に仲の悪いプラスチックがある訳でもないので、PE、PP、PSなどで問題ないだろう。
9.その他
いわゆる「はな垂れ」が起きやすい傾向がある。温度をやや低めに設定し、場合によっては少量のサックバックを設定する。その場合でも3項の理由で最小限の背圧は掛けておきたい。
 
次回は金型製作上の注意点について。
 
つづく
 
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