2002/5/27  生分解性プラスチックのお話U
 
23.天然高分子系生分解性プラスチック/セルロース系その1
 
代表銘柄
  セルグリーンPC−A/ダイセル化学工業
  ルナーレZT/日本触媒(米:プラネット・ポリマー・テクノロジー)
  など
 
数ある天然高分子系生分解性プラスチックの中でも、澱粉系と並ぶもう一つの代表はセルロース系であろう。セルロースは良く知られた植物繊維の主要成分であり、自然界に最も普通に見られる炭水化物と言って差し支えない。工業的にはパルプや綿から採取するらしいが、そのパルプから出来る代表的工業品は紙でもあり、大局的には紙の親戚と言ってもいい。セルロースは人が利用してきた最も古い工業原材料だ、と言い換えてもまんざら間違いとは言えないだろう。
また、食物としても草食動物のように栄養源として利用している生物は数多い。残念ながら「人」は消化出来ずに整腸作用を期待するのみだが、もし栄養源として利用出来れば将来の食物問題は解決してしまうかもしれない。
プラスチックとしてのセルロースの利用は従来より、いわゆる「セルロイド」が代表であると思われる。セルロイドはニトロセルロースに樟脳を混ぜて作られたプラスチックの一種で、童謡でも良く知られた人形・お面などの玩具やフィルム材料として使われてきた。「ニトロ」などと言われると何となく想像してしまうように大変燃えやすい材料で、最近の流通量はわずかとなっているようである。現在ではそのセルロイドに替わって、「アセチルセルロース(酢酸セルロース)」としての利用が主要となっていると聞く。生分解性プラで言うセルロース系もこのアセチルセルロースの利用で、様々に改質したり他の材料と混ぜ合わせたりしてプラスチック材料としている。
また、現時点でもアセチルセルロースの市場はかなり大きく、大規模なプラントも存在している。この大規模プラントから生分解性プラ用のプラントへの移行も比較的容易と言われ、将来の展開によってはかなり低価格な提供も可能と思われる。
ナチュラルのセルロース系生分解性プラはやや黄色みがかった透明性プラスチックで、一見した様子はABSの透明グレードのように見えるかもしれない。いずれも大変特徴的な臭いが有り、セルグリーンでは生臭いような先のセルロイドの臭い、ルナーレではかなり強い酢酸臭がする。この臭いは加工後製品となっても長期間残り、セルロース系プラを最終製品として利用する上での問題点の一つである。また、成形前乾燥はセルグリーンで80〜90℃/8時間、ルナーレで60〜80℃/8時間程度を基本とする。いずれも水分そのものが物性に与える影響は少ないと思われるが、ルナーレでは若干臭いを薄める効果も有るように感じられる。
セルロース系プラ製品を一見した様子はポリプロピレンに近い。一般グレードは半硬質系プラと言ったところで、爪で傷つく程度の硬さである。物性は比較的安定しており、周囲環境に左右されることは少ない。しかし、クリープ特性はあまり優秀とは言えず、くせのつきやすいところがある。また、いずれも靱性にはやや劣り、過剰な応力下では音を立てて割れたり、裂けるように破壊することがある。要は使い方次第なのだが、製品設計においては使用状態での応力集中を防ぐ形状とすることが重要となる。
先に草食動物のことについて触れたが、以外にも自然界でのセルロースの分解は決して早い方ではない。実際、草食動物も自身の消化器官だけではセルロースを消化吸収出来ず、多くは体内に取り込んだ微生物の力を借りている。また、山歩きなど趣味の方は良くご存じだろうが、セルロース=パルプ=木と考えれば、自然界の倒木など以外に長期に渡って腐敗しきれずに残るものである。この倒木などの崩壊は実はシロアリなどによる食害の方がずっと大きい。一般環境中におけるセルロース系プラも同様で、生分解性プラ中でも分解性に関しては最も遅い部類に属する。したがって今後セルロース系プラ普及のためには、いかに早く分解させるかがキーポイントになると思われる。可能ならば他の生分解性プラとブレンドしたり、崩壊を促進させるような吸水性物質などとの混合が考えられる。
さて、短所が有れば長所も有る。セルロース系プラは生分解性プラ全体の中でも、最も成形加工性に優れる部類に属する。詳細は次回以降に見送るが成形加工も金型も比較的制約事項が少なく、成形業としては好ましい材料と言えるだろう。残念ながら生分解性プラ普及が予想外(予想通り?)の停滞を続けている現在、セルロース系プラの生産も同時に停滞しており先行きも明るいとは言えない。しかし、原材料としては価格と加工性という大きな長所を有しており、分解性アップも普及と研究が同時進行的に進めば困難ではないと思われる。透明性でそれなりの硬さと外観性を有しており、セルロース系プラは生分解性プラのエースとなりうる潜在的能力を持っているのである。
 
次回はセルロース系プラの成形性について。
 
つづく
 
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